糖尿病外来
診療理念
治療内容に納得と理解ができるよう指導することです。
診療方針
新しい情報を常に取り入れ、より良い血糖コントロールを目指せるよう日々邁進しております。
担当医紹介
田村 百合子(たむら ゆりこ)
日本内科学会 認定内科医
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
西尾 理恵(にしお りえ)
日本内科学会 認定内科医
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
日本内分泌学会認定 内分泌専門医
医学博士
内分泌代謝・糖尿病内科領域専門研修指導医(領域指導医)
経歴はコチラ
糖尿病
糖尿病について
糖尿病は、インスリン作用の不足により慢性の高血糖を主徴とする代謝疾患群です。糖尿病を発症する原因には、遺伝因子と環境因子の両方が関係しています。
糖尿病は様々な合併症を引き起こしますが、これらの多くはこの慢性の高血糖が続くことにより引き起こされます。糖尿病合併症は、良好な血糖コントロールを維持することで、その進行を遅らせることができます。
また、糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、その他の糖尿病、妊娠糖尿病に大きく分類されます。
疫学
1997年と2007年を比べると、糖尿病が強く疑われる人(HbA1c値* 6.1%以上または糖尿病の治療中)および、糖尿病の可能性が否定できない人(5.6%≦HbA1c値<6.1%)のいずれも増加しています。両者を合わせた患者数は、この10年間で1370万人から2210万人へ増加しています。(日本糖尿病学会)
*HbA1c値とは、過去2ヶ月の平均血糖値を反映するものです。
正常高値と境界型
日本糖尿病学会は、2008年3月から空腹時血糖が100~109mg/dlのものを正常域の中で“正常高値”と呼ぶこととしました。正常高値の領域の方でも、糖負荷試験を施行すると、25~40%が境界型や糖尿病型に属すると言われており、機を見て糖負荷試験を受けることが推奨されています。
また、糖負荷試験で境界型と診断された方のうち、年4~6%の方が糖尿病型へ悪化すると言われており、正常型の方よりも糖尿病型へ悪化する可能性が高く、動脈硬化性の合併症(特に心筋梗塞などの心疾患)の危険が高いという特徴があります。
さらに、空腹時血糖が正常でも食後高血糖のある方は、心臓の血管の病気になる確率や全体の死亡率が上がるという有名なデータがあります。(舟形町研究)
新しい糖尿病の診断基準と血糖コントロール目標値
糖尿病の診断基準
日本糖尿病学会は、10年ぶりに糖尿病診断基準を改訂し、2010年7月1日から施行しました。今回の改訂の要点は、主に以下の2点で、以前より糖尿病とする診断値が厳しくなりました。
- HbA1c値を糖尿病の診断に取り入れ、糖尿病型の判定に新たにHbA1c値の基準を設けました。
- 血糖とHbA1c値の同日測定を推奨し、血糖値とHbA1c値の双方が糖尿病型であれば1回の検査で糖尿病と診断可能にして、より早期からの糖尿病の診断・治療を促すようにしました。
HbA1cには、国際的に広く使用されているNGSP値で表記されたHbA1c(NGSP)と、日本でこれまで使用されてきたJDS値で表記されたHbA1c(JDS)があり、およそ0.4%異なります。当院でも院内検査でのHbA1cは、この2種類を併記してまいりました。しかし、2013年4月より特定健診等ではNGSP値のみが使用され、日常の診察においても(例えば定期受診時の採血結果など)、2014年3月までにNGSP値単独表記となります。これに伴い当院では、下記の新しい血糖コントロール目標が運用開始される2014年6月より院内検査でのHbA1cの表記はNGSP値のみとなりました。
血糖コントロール目標値
2013年5月に行われた糖尿病学会年次学術集会で、国際標準化に伴ったHbA1c(NGSP)値においての新しい血糖コントロール目標が設定され、6月より運用開始されました。
その目標は、以下のように大きく3つに分類されています。当院でも一人ひとりの患者さんの状態に合わせた目標値を設定し、説明しています。
治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。
注1)適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
注2)合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
注3)低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
注4)いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。
糖尿病の合併症について
糖尿病の合併症には、慢性的に高血糖が続いたことにより起こる慢性期の合併症と急性期の合併症があります。
慢性期の合併症
慢性期の合併症は、細い血管が障害される細小血管障害と太い血管が障害される大血管障害があります。
A. 細小血管障害
細い血管が障害される合併症として、1)網膜症、2)腎症、3)神経障害があります。
- 網膜症は、眼底検査をすることにより診断されます。視力低下の自覚症状がない方でも定期的に検査する必要があります。自覚症状がないため糖尿病を放置し、目のかすみ、見えにくさが生じて眼科を受診した頃にはかなり網膜症が進行していた、というケースも多く見られます。現在、本邦の失明原因の第2位にこの糖尿病網膜症があげられています。
- 腎症は、その程度により5期に分けられます。第2期では、ごく少量の蛋白尿(微量アルブミン尿)が見られる程度で、そのうちに蛋白尿となり徐々に増加(第3期A~B)、遂には腎機能低下(第4期)をもたらします。第4期となっても特に何も自覚症状を感じない方も中にはいらっしゃいますが、だるさ、むくみの症状が出てくる方もいます。この頃になると、先に述べた網膜症も相当進行している方が多いです。本邦で2007年に新たに透析を導入された方のうち、原因疾患で最も多かったのは糖尿病で、全体の43.4%にのぼります。また、糖尿病性腎症で透析が必要な患者さん(第5期)の割合は、年々増加しています。
- 神経障害は、軽度のうちはほとんど自覚症状がない方も多く見られます。なぜなら、糖尿病の神経障害は、両側の足先から始まることが多く、刺激を伝える神経の機能が低下してくるためです。少し進むと神経障害の代表とも思われる足のしびれ、中にはずっと正座していたようなしびれが続くといった不快な症状がでてきます。更に進行すると、そのようなしびれ自体も感じなくなり、逆に症状がなくなった、もしくは、良くなったと思う方もいらっしゃるかもしれません。神経障害は進行することにより、糖尿病性足病変の原因となることがあります。下肢の切断に至ることがある糖尿病性足病変のうち神経障害が関係する割合は、約60%を占めています。
これらの合併症は血糖コントロールの強化によって発症抑制されることが国内の研究によって報告されています。
(Kumamoto study)
B. 大血管障害
太い血管が障害される合併症として、脳梗塞に代表される脳血管障害、心筋梗塞に代表される冠動脈疾患および末梢血管障害があります。糖尿病の方は同じ年齢の糖尿病ではない方に比べると、脳梗塞の発症率が3倍以上高いと海外および国内の大きな試験で報告されています。(Framingham study,久山町研究)
また、冠動脈疾患による死亡の危険は、糖尿病の前段階である食後過血糖状態(糖負荷試験の2時間値140以上:IGT)の時点からすでに高いという報告もかなりの研究で明らかになっています。(DECODEstudy、DECODAstudy、舟形町研究)
これらの合併症も血糖コントロールの強化によって発症抑制されることが大規模な研究によって明らかになっています。(UKPDS,DCCT)
急性期の合併症
急性期の合併症は、多くは、病気や精神的ストレス、スポーツドリンクの多飲などがきっかけで急激に高血糖になったことによるもので、ベースに脱水があります。
また、急性期の合併症のひとつとして低血糖や食事が摂れない時のシックデイがあげられます。
A. 低血糖
糖尿病の治療中、インスリン注射や、ある種の糖尿病薬で低血糖を起こすことがありますが、全ての糖尿病薬で低血糖が起こるわけではありません。
低血糖症状には、発汗、蒼白(顔色が悪くなる)、動悸、頻脈、手の震え、眠気、だるさなどがあります。低血糖症状を日頃からよく理解しておくこと、起きてしまったら、原因をよく考え、次に起こさないようにすることが大切です。食事内容や、食べる時間についても確認が必要です。
B. シックデイ
風邪や胃腸症などで食事が十分に摂れない時、患者さんによっては糖尿病薬を全て中止するのではなく、インスリン注射も含め一部は続ける必要のある場合があります。それぞれの患者さんによって異なりますので、主治医に予め相談しましょう。熱がある時は、特に脱水に注意が必要ですが、この時は水かお茶を飲むようにしましょう。
糖尿病の治療について
食事療法
糖尿病食は特別な食事と思われる方が多いのですが、日本人の理想的な食事の構成で良いと考える栄養士さんもおられます。したがって、ご自分が糖尿病になった場合、同居されている家族の方への食事内容への影響を心配される方もいらっしゃいますが、これを機に少しご家族の健康を考え内容の軌道修正をされてはいかがでしょうか。過去40年間の日本人の食事内容は当然変遷してきているわけですが、総エネルギーとごはんやパンなどの炭水化物が減少し、脂肪の摂取量が増加しており、この変化と共に糖尿病患者数は増加してきています。
当院では、現時点での食事内容をどのように変えるのが良いのかを初めの一歩と考えて指導しています。
運動療法
運動療法は減量のためと考えられる方も少なくないと思いますが、糖尿病の運動療法は少し意味が違います。運動を定期的に行うことにより、食後の血糖値の改善を図ります。どのような方法で運動をすれば良いのか、年齢、生活、仕事内容が患者さんによって違いがありますので、その方に合わせた方法で指導しています。
薬物療法
~多様な糖尿病治療薬の中から最適な治療の提案とインスリンの導入について~
現在、糖尿病治療の内服薬は9種類以上あり、配合錠も含めるとその選択肢は多岐にわたります。膵臓からのインスリン(血糖を下げるホルモン)の分泌を促進する薬やその効きを高める薬、体重を減らしやすい薬や逆に使い方次第では肥満の原因となる薬まで様々です。また、低血糖を起こしにくい薬や飲み方が1日1回で済む薬など、患者さんの状況に合わせて薬を選択することができます。そのため、当院では、インスリン分泌能やその他の合併症を考慮して、個々人にあった最適な治療を提案しています。
近年では、体重減量効果を得られる薬や心臓・腎臓を保護する作用が期待できる薬として、SGLT-2阻害薬やGLP-1作動薬が話題になっています。ただ血糖を下げるだけでなく、生活習慣病の大きな原因となる肥満を改善することができる糖尿病治療薬は、理に適った治療と言えるでしょう。また、糖尿病の合併症として生じる心血管疾患や慢性腎臓病の進行を防ぐことが期待されている薬も頻用されるようになっています。
糖尿病の注射製剤は、インスリン注射が主流ですが、最近では週1回の注射で済むGLP-1作動薬も多く使われています。インスリン注射は、以前は、「経口薬が全て無効になってから最終的に導入される治療」でしたが、現在では、「内因性インスリン分泌(自分で出せるインスリンの分泌量)がある程度保たれている時期から積極的に導入する治療」へと変化しました。これは、「自分の体から出していたインスリンの代わりのインスリン注射」ではなく、「自分でインスリンを出す機能を長く守るためのインスリン注射」へと変わってきたためです。また、GLP-1作動薬も内因性インスリン分泌がある程度保たれている場合には、インスリン注射と併用したり、あるいは単独でも血糖コントロールを大幅に改善することができます。さらに、血糖測定の機械も、従来の血糖測定器のように血糖値を点でみるだけでなく、その変動をトレンドでみることができる機械も使用できるようになっています。
インスリン注射の種類は、効果の持続時間がより長くなったり、本来の食事の際のインスリン分泌により近似した効き方をするものが発売され、その選択肢も増えています。患者さん個々の状態に合わせた打ち方(回数)、量があり、仕事の関係でどうしても日中は打てない、高齢のため自分ひとりで注射ができないなどのご相談にも専門医として適切なアドバイスを致します。また、通院の回数は増えてしまいますが、外来でのインスリン注射の導入も必要に応じて行っております。お気軽にご相談ください。